みずいろ
彼女の名前
「姉ちゃん。俺、やめるわ」
「はぁ?」
絶対に殴られると思った。
せっかくつかんだ仕事。それもカメラマンになるという夢を目指しながら出来る仕事を手放すなんて、信じられないことだろうと思う。
「あんた、なに言ってるかわかってんの?」
でもさ、姉ちゃん。
下積みでしばらくやっていく、って余裕が俺にはないんだ。
マアコん家のおばさんはあれ以来決して口に出しては言わないけれど、
そして「あれは言いすぎだった。ごめんなさい」と謝ってくれはしたけれど、
実際に経済的に苦しいだろう、ってのがわかってるから。
「じゃ、姉ちゃん。そういうことだから」
そう言ってカバンを一つ持って玄関に向かった俺の背中に姉ちゃんが叫んだ。
「どこ行くの?悠司!」
「どっか・・・泊まるわ・・・・小畑さんには・・・すみません、って言っておいて」
「悠司っ!」
バタン、と閉まった扉の音を聞いて、もう・・・戻れない、と思った。