ポケットの恋
「話それだけですかー」
立ち上がりかけた古谷の腕を、次田が掴んだ。
「じっつは俺、もう一つ聞きたいことがあるのよー」
「…なんすか」
次田はにやりと笑って、また携帯をいじり出す。
見せられた画面に古谷は盛大な溜め息をついた。

『古谷に告ったらフラれました(泣)先輩慰めて…(:_;) みか』

「だからぁ…なんでそんな女とメールしてんですかあんたは!!」
「そこ問題じゃなくね?」
次田がニヤニヤと椅子ごと古谷の横に移動してくる。
「お前彼女持ちじゃない時に告られて振るのって初めてじゃない?」
「……さぁー、忘れましたー」
古谷の答えは、完全に無視された。
「なんで!?」
ずばりお答えを!とばかりに手をマイクの形にして古谷の前に突き出してくる。
やめて下さい、と次田の手を押しやりながら、古谷は立ち上がった。
「あ!ちょっとどこ行くんだよ!ちゃんと答えろ!」
次田の制止は無視した。
少し早いが、休憩は切り上げだ。「先に出ます」
可愛いげないヤツ、と閉めたドアの隙間から聞こえた気がしたが、それも無視だ。
深く知られて、あの子を傷つけるよりは、ずっとマシだから。
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