ポケットの恋
古谷はもう女達に一瞥もくれずに、店から出ていった。



真実は嫌々ながらも、幸日の家を後にしてから古谷のバイト先に向かった。
遊園地の日取りを決めておかなくてはいけない。
古谷の勤めるアミューズメントストアについたはいいが、カウンターに何人も女の子達がたまっていたので入りにくくてドアの前で渋っていると、ガラス越しに、カウンターの奥の部屋から、私服の古谷が出てくるのが見えた。
幸運にも、今あがるところのようだ。
だったら、ここで待っていれば大丈夫かな。そう思いながら見ていると、カウンターにたまっていた女の子達が、古谷の方に近づいていった。
あいつのことだからにやけて目もあてられないはず。
後で出てきた時にからかうネタになるかもっ。
そんなよこしまな気持ちで、目と耳を集中させる。
苦労しなくても店の入口付近で交わされる会話は簡単に聞こえてきた。
まず目に入ったのは、見た事が無い程機嫌の悪そうな古谷。
続いて小さく聞こえてきた言葉に思わず目を見開いた。
「お前等さ、恥ずかしくない訳?そんな悪口わざわざ他人に知らせにくるような女の方が、よっぽど性格悪いと思うんだけど?」
思わず硬直する。
「え…古谷…?」
いつものにやけた顔は見る影もない。
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