ポケットの恋
真実は間髪入れずに怒鳴った。
「くたばんないよー。だから送らせてってば」
「いやじゃぼけなす!」
そういって、真実は踵を返して歩きだした。古谷はちゃっかりとついて来る。
「ついてくんな!暗いから危ないなんていわせないからね。まだ十分明るいし!」
前に道でばったり会った時の話だろう。
少しでも覚えていたらしいことに、古谷は思わずふっと笑った。
「もうやだやだやだ!あんた嫌い!まじついてくんなよ!」
真実はそう怒鳴り付けると、大股でずかずかと歩いて行った。
なんだかんだ言い合っている内に大通りには出ている。
古谷は立ち止まって、真実を見送った。
「…さーてと。俺はいろいろ伝える名目で南部からかいに行こ」




「やっほい!悩める青年!」
「………」
南部は無言で扉を閉めようとする。
「あらあらあらー」
古谷は靴の先を挟むことでそれを阻止して、勝手に部屋に上がり込んだ。
「なんの用だよ…」
心底嫌そうな顔をして南部は言う。
古谷がわざわざ出向いてきた時に、良いことがあった試しは無い。
そういえばこの間買ったこどもビール数本は、今も冷蔵庫に放置されている。
「今日はお知らせーみたいなー」
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