ポケットの恋
しかも古谷は気味が悪い程に上機嫌だった。
にやついた顔のまま冷蔵庫を勝手に開けて、おまえこどものビールどんだけ好きなのと爆笑している。
「なんかいいことあったか?」
古谷が渡してきたこどものビールを無言で冷蔵庫に戻すと尋ねた。
古谷はきょとんとした顔をした。
「へ?なんで?」
「だって凄い笑ってんじゃん」
南部がそういうと、古谷はぺたぺたと自分の顔を触りだす。
「そう?」
「無意識かよ。気持ち悪いな」
呆れたような南部を見て、古谷はニヤリと笑った。
「いやいやいや…戸田とのショッピングの後の秋仁には負けるよ」南部はぐっと喉をつまらせた。
「…いたわれよ…俺の傷ついた心を」
急にへこんだ南部を見て、古谷はげらげらと笑いはじめた。
「いたわってるよー。十分」
「笑うなよ!つかどこがいたわってるんだどこが!」
「来週の土曜日」
「は?」
「遊園地行こう」
「………はぁ?」
長い沈黙の後で、南部は呆れたように言った。
「だから、遊園地」
古谷は言いながらチケットを取り出す。
「秋仁最近傷心だしさぁ?お兄さんが癒してあげようと思って」
「いらん。悪いけど」
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