ポケットの恋
「何ー?ちなみに俺はちゃんと確認したよ」
言いつつ打った的は一発で当たり一気に点が加算される。
真実は言葉に詰まって黙った。
至近距離で古谷がくすくす笑っているのを見ると「何よ!」と噛み付く。
「べっつにー?」
古谷はくすくす笑ったまま着実に点を重ねていった。




今南部の頭にあるのは、古谷への怒りよりもこの状況への困惑が主だ。
自分の目の前では幸日が一生懸命的を狙って撃っている。
まだ一つも当たってはいないが。
そんなことよりも、この状況だ。
今自分が幸日を抱き混んだ状態になっているというこの状況。
古谷の言っていた"カップル向けの"とはこのことなのだろう。
そして、また幸日と話すことができたとは。
我ながら女々しい思考だなと内心苦笑いしながらも、それはそれで普通に嬉しいのだからしょうがない。
二週間程前に送ったメールの返事は、昨日の夜来た。
考えて欲しい、の返事が考えさせてください、なのだから全くと言っていいほど進展はない。
ないが――せっかく古谷がセッティングしてくれたこの機会を無駄にするか。
「幸日ちゃん、あたってないよ」少し茶化し気味で南部が話しかける。
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