ポケットの恋
心底わからないといった表情の古谷に、真実は苦い表情になった。そのまま無言になる。
古谷は思案気にしていたが、よし!と声をあげると、屈んでいた腰を立たせた。
「しばらく秋仁と戸田は二人っきりにしといて。俺達はちょっとどっかで遊んでこよっか」
「…は?」
真実が呆れた表情で古谷を仰ぐ。
「うん。決まり決まり。行こう!」
そう言って古谷は歩き出した。
真実は困ったようにすわったままになっている。
古谷が振り向いてニヤっと笑った。
「秋田、俺と一緒に来ないと戸田とも合流できないよ?」
その言葉に、真実の頬が紅潮する。
「あぁわかったよ!行くわよ!!行けばいいんでしょ行けば!!」
物凄い勢いで立ち上がった真実が、今度は古谷を抜いてずんずん歩いて行く。
その後ろで古谷が小さく噴き出した。



幸日と南部が決めたレストランに、真実と古谷がやって来たのは、二人がレストランにはいってから1時間半程経った時だった。
「いやーごめんごめん!!」
古谷が能天気な声と顔で南部の隣に腰を下ろす。
その古谷を南部が冷たく見据えた。
「何してたんだよ…」
「いやーはっは。盛り上がっちゃってねー。ねっ真実ちゃん?」
「いや、盛り上がってないから」
げんなりした表情で間髪入れず突っ込んだ真実を見て、南部は100パーセント古谷が悪いと認識する。
「あれぇ…そうだった?俺的にはもうバリバリな感じだったけど」
古谷がメニューに手を延ばしながら能天気に言った。
「あ、秋仁秋仁、パエリアあるよ。好きだったよね?あ、でもニンニク強いからデートにはNG?みたいな。ねぇー真実ちゃん」
意味もなく話をふられた真実は半眼になった。
「そうねー…パエリアだったら幸日も好きねー…。二人で食べたらニンニクもOK、みたいなー…」
ダラダラとやる気のない声で答える。まるで棒読みだ。
二人のやり取りに幸日がついに噴き出した。
「真実ちゃん、よし君と温度差ありすぎ!全然のってない…」
口に手をあてて、幸日が笑いを堪えている。
真実はその幸日を見て嬉しそうに小さく笑った。
「ほらほら!あんたも選びなさいよ!」と隣の幸日の背中をばんばん叩く。
「痛いよ真実ちゃん!」
泣き笑いしながら言うと、幸日はようやくしっかりメニューを見はじめた。
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