ポケットの恋
「なんで…」
げっそりとした顔で真実は呟いた。眼下には遊園地が揺れている。「なんでよ…」
どう転べば、あそこまで拒絶した観覧車に乗ることになるのだ。
幸日まで巻き込んだ防衛戦だったのに。
「観覧車はのらなくちゃ。定番だろ?」
げっそりした真実などお構いなしに、古谷は爽やかな笑顔で言い放った。
「いみわかんないいみわかんないいみわかんない……」
「だって秋仁と戸田をくっつけるためじゃん」
「あたしはその言葉に騙されてた…今までずっと!結局あんたの良いようにおどらされてただけだわ」
真実は大きくため息をつきながら手摺りに額をつける。
「ちょっ…ちょっと!人聞きの悪いこと言わないでよ。俺は純粋な気持ちで二人が仲良くなってくれたらなぁって」
古谷は慌てた様子で弁解するが、口調にはしっかり笑いが含まれている。
真実はガバッと顔をあげると、古谷を思い切り睨みつけた。
「は!そのにやけた顔でよくいうわ!ばか!くたばれ!落ちろ!あんただけおちろ!」
「いやぁ…」
「あたしが帰ったって別によかったじゃん。あんた一人の力で、幸日達観覧車に乗せるのなんてわけないでしょ!」
「うん、分かる分かる。ゴーストが怖かったんだよね?」
「…っるっさいな!悪いか馬鹿!」
真実はむくれた顔で今度は手摺りに頬杖をつくと、窓の外を睨みつけて動か無くなる。
古谷は何やら思案気にしていたが、不意に立ち上がった。
「ぅぎゃあ?!」
軽く観覧車が傾きがちになって真実が大声を上げる。
古谷は気にした様子もなく、にこやかに真実の隣に座った。
そうして真実の肩を抱く。
「いやあ、秋田とこうしたくってねぇ」
大根役者も驚きの棒読みっぷりだ。
「はぁ!?」
真実がまた大声を上げた。
飛び上がるようにして向かいの席へ移る。
「きもいわあんた!っいか!いかっいかっいかっ!」
「は…いか?スクイッド?」
「そうだけどばか!」
真実は必死の形相で叫ぶと、また窓の外に目をやった。