ポケットの恋
「ていうか秋田、なんで観覧車嫌がったの?高いとこも駄目?」
「けっ!」
「真実ちゃん……肩抱くよ?」
言いながら古谷がまた立ち上がる。真実は、手摺りについた肘を盛大に滑らせた。
「は!?脅しか!?ふざけんなスクイッド!しゃべるなもう!下に着くまで口閉じてて!」
「え。駄目なの?高いとこ」
「ちーがーうー!観覧車嫌いなだけ」
真実が吐き出すように言うと、古谷はほっとしたように笑った。
「そっかぁ。よかった。そうだよね、真実ちゃん小さい時から高いとこ好きだったもんね」
ほとんど無意識に言ったような言葉に、真実が目を見開いた。
古谷は特に気づいていない。
「ね、秋田」
笑ったまま真実に話し掛けて、真実の表情にようやく気が付いた。「ほんと、あんたって無神経、小さい頃から変わってない」
真実は古谷と目を合わせずに言った。
「何が楽しくてこんなことやってるか知らないけど、あたしあんたがだいっきらいだから」
観覧車の中が静まり返る。
だが、それも一瞬だった。
「なぁに言ってんの真実ちゃんー素直じゃないなあー」
古谷がにやにやと笑いながら言う。
座った場所は、真実の向かいだった。
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