ポケットの恋

「やっぱり、遊園地って楽しいですね」
幸日は窓から外を眺めながら言った。
「真実ちゃんにはよく子供っぽいって言われるんですけど、やっぱりはしゃいじゃうなぁ」
幸日はにこにこと笑いながら、南部のほうを向いた。
「南部さんはどうですか?」
うっかりみとれていた南部は、急に声をかけられて我に帰る。
「あぁ…わかるかも」
考える余裕もなく生返事になってしまったが、幸日は嬉しそうだ。
ですよね、とはしゃいだ声で言って、また窓の外に視線をやった。「あぁ!さっき言ってたのあれじゃないですか?」
不意に幸日が声をあげる。
指差す方向を見ると、ジェットコースターのレールと古城があった。古城にジェットコースターが入り込む所は、全景を見てみるとそのコースがほぼ垂直だとわかる。
幸日と南部が見ている最中にも、ジェットコースターがそのコースを勢いよく滑っていった。
「けっこう…怖そうだね」
話し掛けると、幸日はこくこくと頷いた。
「よし君には悪いけど、乗らなくてよかったぁ。今見たら垂直に落ちるみたいになってるし!あれ、怖過ぎですよね!?」
「だよね」
一生懸命まくし立てる幸日に笑って答えると、はっと気付いたように赤くなった。
「ごっごめんなさい!はしゃぎすぎでした…」
「全然?」
むしろそれが可愛くて、笑ったままそう返すと、幸日は赤くなったまま笑った。
「南部さんは、次何乗りたいですか?」
「そうだな…なにあるんだろう」
「あ、パンフレットありますよ」
そういって、幸日は向かいの席から立ち上がって、南部の隣に座った。
パンフレットを広げてお互い覗き込むと、自然に顔が近くなる。
南部は精一杯平静を装った。
「あ!これとか!」
幸日がそう言って指差したのは3Dを楽しむアトラクションだ。
「あぁ、面白そう。これ有名なやつだよね?」
「はい!映画と連動してるんですよね」
パンフレットには、今人気の映画の写真が一緒に載っている。
「これ人気だよね?整理券無しだとどれ位で入れるかなぁ」
「あ、ですよね…待ち時間長かったら真実ちゃん帰りたがってたから怒るかなぁ」
「あぁ、かなあ」
二人で思案している内に観覧車の乗り時間は終わっていた。
係員が戸の外に見えると、幸日が焦ったように向かいの席に戻った。
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