ポケットの恋
「…幸日、何これ」
真実の視線はまだメールに釘付けのままだ。
幸日が消え入りそうな声でわかんないと呟いてから、やっと顔をあげて幸日をみた。
「わかんないじゃないでしょ!これどう見たって…」
真実が幸日に詰め寄る。
普通ではない雰囲気に、南部は思わず、真実の手から携帯を抜き取った。
「見せて」
言ったと同時に携帯のメール画面を見る。
表示された文の最初の数行で、南部も同じように表情を変えた。
少し見ただけでわかる。
これは明らかにストーカーのメールだ。
添付された隠し撮りをしたらしい幸日の写真もみれば、悪質なタイプであることもわかる。
「これ…なんだよ…」
言いかけた時に幸日を見て、思わず言葉を飲み込んだ。
なんでもないという表情をしようとしているのだろう。
強張った笑顔に震えている指先はあまりにも痛々しかった。
< 136 / 341 >

この作品をシェア

pagetop