ポケットの恋
「あれから何かあった?」
大学からの帰り道、真実はなんでもないように話し掛けた。
隣にいる幸日を小さく窺う。
幸日は表情を堅くしたが、それも一瞬だった。
「うん。なんかあれだけだった」真実は隠れて舌を打つ。
なんでも一人で抱え込むのは幸日の悪い癖だ。
真実は無言で、さりげなく背けられた幸日のかおを、無理矢理真実の方へ向かせて、それから大きく息を吸い込んだ。
「あーのーねぇ!!」
「なっ…何?」
「嘘つくならもっと上手くつきなさい。ホントのこと言ったら心配させるかもとか思ってるかもしんないけど、逆!嘘つかれてるって気付いちゃった時の方がずっと心配すんの!」
幸日の目が、驚いたように丸くなった。
「何かあったことなんてすぐわかるよ」
出したのは極力優しい声だ。
今幸日は、誰よりも優しくされて良いはずだから。
泣きそうな顔で唇を噛んでいる幸日の頭を軽く撫でてやると、限界を超えたように、幸日の目から涙がこぼれた。
「真実ちゃぁん…」
腕をのばして抱き着いてくる幸日を、真実は優しく抱き留めた。