ポケットの恋
幸日が落ち着いてから、真実と幸日はファミリーレストランに入った。
絶対真実が騒ぐから、出来るだけ人目を気にできるところで、と幸日が言ったからだ。
帰るのが遅くなるが、夕食はここでとることにした。
適当に注文を済ませ飲み物が運ばれてきたところで、幸日は携帯を取り出した。
「受信メール…見てみて」
促されるままにメールの画面を開く。
開いて、ぞっとした。
無言で下へスクロールしていきながら、肌が粟立つ。
一回に6件のメールが表示できるページが、10ページ分以上、おそらく同じ人間から来たであろうメールでうめつくされている。
2ページ程送らないと日にちは変わらない。
一日に12件程が、時間もまばらに送られてきていた。
「2回目のメールが来た時点で、なんで言わなかったの!?」
「ごめん…」
俯いてしまった幸日に、小さく溜め息をついてからメールを更に開く。
『最近お風呂入るの朝なんだね』『昨日帰り遅かったね。危ない目に合わなかった?でも、俺が見てたから大丈夫だね』
幸日をずっと監視していなければ知りえない情報だ。
第一、『危ない目に合わなかった?』等と言えるこのストーカーは、相当人を馬鹿にしている。
―それとも、本気で自分が幸日を守っていると、自分に都合のいい思い込みをしているのか―
「お風呂って…まさか部屋に隠しカメラとか無いよね…」
「でも、うちオートロックだよ?」
「あぁ、そっか…」
確かにオートロックでは、隠しカメラを仕掛けるのは難しいだろう。
「シャワーの音が聞こえるような近くに住んでる、ってこと?」
「かなぁ…」
「警察に…知らせた方がいいかな…」
小さな声に、真実は顔を上げた。「だめだよ、」
そうして鞄から紙の束を取り出した。
「これ…」
手に取った幸日が目を見開く。
「この間調べた。何か参考になるかなって…」
真実が示したのはインターネットで調べたのをプリントアウトしたものだ。
「受信した迷惑メールとか見せても、犯人がわかんなかったり直接危害加えられたりしないと警察なんか動いてくれないみたい。
犯人煽るだけって結果になりかねないよ」
そっか、と幸日が肩を落とす。
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