ポケットの恋
明日美が「怒らないでよー」と追ってくる。
26にしてこのカフェをいちから立ち上げた結城明日美は、最早店の名物にもなっている美女だ。
歯に衣着せぬ物言いをするが明るく快活な性格で、どこか憎めない。
バイトの面でもプライベートでも、明日美には散々世話になっている。さっぱりした性格が、真実は好きだ。
「真実ちゃん、古谷君コーヒー終わりそうだから、おかわりいるか聞いてきてもらえる?」
明日美の言葉に、真実は思わずぎくりと身を固めた。
遊園地で嫌な別れ方をしたすぐ後だ。
できれば、まだ近づきたくない。どうせなら、いつもみたいにへらへら笑ってたらよかったのに。
そうすればまだ接しやすかっただろうに。
なのに何で。あの日はあんなに真剣に――。
「真実ちゃん?どうしたの?」
明日美に声をかけられて、真実ははっと我にかえった。
「――わかりました。おかわり聞いてきます」


「コーヒーのお代わりはいかがですか?」
堅くならないように気をつけた声は上手にかかったと思う。
古谷は頬杖を着いていた顔を不意にこちらへ向けた。
その表情がすぐに嬉し気なものに変わる。
「真実ちゃん!!元気だった?!遊園地疲れとかない?!」
あまりにもいつも通りの様子に拍子抜けした。
次の言葉がすんなりでなくて少し会話に間があく。
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