ポケットの恋
「秋仁くん」
かけられた声の方向に、南部はゆっくりと振り向いた。
「最近ずっと図書館いるね、秋仁くん」
かけられた声の持ち主は、いくつか南部と同じ講座をとっている宮川もとこだ。
「暑いからね、最近」
適度に愛想の良い受け答えをする。宮川は「だよね」と笑って、そこでようやく古谷に気がついたようだった。
「良行君も、今日は図書館来てるんだ」
少し焦ったように宮川が言う。
"今日は"という所に、無意識だろうが批難の色が混じっていた。
言外に、古谷が邪魔だと言っている。
そういう機微に聡い古谷は盛大に鼻を鳴らした。
宮川の先程からの発言と、どう考えても偶然とは思えない出会い方のタイミングに、用件はもう知れたらしい。
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