ポケットの恋
「は…」
「秋仁、遅い」
振り返ると古谷がぶっきらぼうに言った。
軽く睨みながら、タイミングの良さに内心感謝する。
「何、まだ話終わってないの」
手を離した古谷の質問に、改めて宮川の方を向く。
「もういい?」
尋ねると、宮川は視線を迷わせた。
「無いなら秋仁もらってくけど」古谷が言う。
彼女は少し迷うようにした後、わかった、と頷いた。
「ごめんね。せっかく良行君と来てたのに」
「いや」
「それでね、あたしあんなこと言ったけど、これからも友達として接してくれると嬉しいっていうか…。よかったら携帯のアドレスだけでも交換…」
少し俯きながらだらだらと話し続けるのを、古谷が咳ばらいで止めた。
「ごめん、古谷待ってるから。また」
「あ…」
彼女は呼び止めようと何か言いかけたが、南部は背を向けて、古谷と並んで自習室へ向かった。
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