ポケットの恋
「お母さん、開けるよ?」
真実はゆっくりと病室の戸を開けた。
「こんなに頻繁に来てくれなくていいのに…」
ベッドに上体を起こした母が、申し訳無さそうな表情で言った。
「何言ってんの?心配なんだから来るの当たり前でしょ」
呆れたように言って真実は窓際へ寄っていく。
「花瓶の水、変えて来るね」
「あら、そんなのあたしがやるのに」
「病人が何言ってんの!」
入ったばかりの病室を、真実は足早に出た。
戸を閉めてから立ち止まる。
「無理しちゃって…」
思わず溜め息混じりの言葉が漏れた。
真実の母が入院したのは、三年程前の事だ。
真実の父が外国に転勤になってからすぐだった。
元から心臓の弱かった母は、夫のいない生活の中で、予想以上にストレスを溜めていたらしい。
真実が高校から帰ってくるとキッチンで倒れていて、すぐに病院へ運ばれた。
それから今まで、ずっと入院したままだ。
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