ポケットの恋
16
「幸日!」
幸日が食堂へ向かっていると後ろから声を掛けられた。
振り向かなくてもわかる。
「真実ちゃん」
横に並んだ真実にへにゃっと笑いかけると、真実が小さく顔を顰めた。
「やっぱり幸日…あんた元気無いよね?……ストーカーのこと?」最後の部分は耳打ちするように言う。そのこともある。
でも最近の幸日から元気を奪っているのは、主にあの告白が原因だ。南部個人の問題で、自分にはなんの関係も無いとわかっているのに、妙に心が痛かった。
だから、真実の心配は検討違いと言えば検討違いだ。
それでも嬉しかった。
だからこそ、真実に心配をかけられる訳が無い。
「そんなことないよ」
笑って答えると、真実は怒った顔をした。
「幸日今日午後の講義ないよね」突然聞かれて、「え…うん」と答えると、「じゃあ」と真実が幸日の腕を取った。
「一緒にお昼食べよ」
「へ…」
返事をする前に真実はどんどんと正面玄関の方へと幸日を引っ張って行く。
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