ポケットの恋

「…そう」
「わかりました。大丈夫です」
思わず声をあげそうになった。
何の思し召しだ、これは。
「いいの？」
「あた…しも、ちょっと知りたかったから…」
聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりの声だった。
そのせいで、耳を疑った。
彼女が携帯を操作し始めたのを見て、ようやく現実だと認識する。自分も慌てて携帯を取り出すと早速アドレスを交換した。
「ありがとう」
そう言って微笑みかけると
「お礼なんかいいです！」
と思い切り首を振る。
何それ、かわいいんだけど。
思わず口元に手をあてた。
やけにゆったり流れていた時間は古谷の一言で一気に現実に引き戻される。
「盛り上がってる所申し訳ないんだけど南部君？俺と秋田のこと忘れてない？」
「ぁ…ごめんなさい！」
幸日がまた頭をさげた。
「あぁ！こいつに頭さげなくて大丈夫だから！」
幸日に声を掛けながら古谷に手を合わせて詫びる。
「別にいいのよ？若い二人でやってくれればー」
古谷はいきなりオネエ言葉を装着して鷹揚に頷いてみせた。
「よし君てば…」
幸日がそれを見て堪えきれないように吹き出した。