ポケットの恋
一生懸命落ち着いた態を装おうとしている幸日に、真実はきょとんとした顔で続けた。
「きれいっていうか…断るでしょ、普通」
「え…なんで?」
「だって南部さんは幸日が好きじゃん」
さらりと言われて、幸日は持っていたコップを、ほとんど取り落としそうになった。
「ち、違うよ!南部さんはあたしのことが好きなんじゃなくて、風邪ひいたときに彼女がいたらいいだろうなって思っただけだよ、きっと!」
「だって、幸日を彼女に欲しいんでしょ。だったら幸日のことが好きなんでしょ」
思わず硬直する。
何も言えなくなって黙り込んでいると、真実が不審気に幸日の顔を覗き込んだ。
「なんでそんな顔赤いのよ」
真実の一言で、ようやく自分の表情を把握する。
そうすると一気に顔が熱くなった。
冷ます為にコップの水を勢いよく飲む。
「そんな…違うよ…」
久しぶりに声を出す。
「ふぅん?」
正面にいる真実が思わせ振りな笑顔を浮かべた。
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