ポケットの恋
「な…何…」
下から窺うように見上げると、真実はますますにやにやした顔になる。
「何真実ちゃん!」
真実が良いことを考えて無いような気がして、焦るようにひそひそ声で怒った声をあげた。
「付き合っちゃえばいいのに」
あまりにさらりと言われて、思わず聞き逃すかと思った。
「え…?」
硬直した顔を真実に向けると、真実は定食のおかずを口に入れながら、幸日をじっと見る。
「幸日、自分の気持ちがわかんないとか言ってたけど、あたしからはどうやったって南部さんのことが好きなように見えるよ。まぁ、ストーカーの件もあるから、慎重に行動した方が良いとは思うけど」
「あたし…」
「ん?」
「…付き合うなんて選択肢、考えてなかった…」
思っていたことは、割と簡単に口に出た。
「好きなら好きで、それでいいのかと思ってた」
脱力したように箸を置いた幸日を見て、真実はくすりと笑った。
「テンパりすぎ。もっと落ち着いて考えれば、単純なことだと思うよ」
< 171 / 341 >

この作品をシェア

pagetop