ポケットの恋
「知らない」
やっとのことで搾り出された言葉がそれだった。
「え?」
「会ってもない」
「そうなの?でもあたし、よし君は真実ちゃんのバイトしてるカフェ、良く行ってるんだと思ってた」
幸日がきょとんとした顔で言うと、真実は小さく咳込んだ。
「来てないことはないけど、あれはほら、店長狙いだから」
「え…」
幸日が驚いたように小さく言った。真実をじっと見る。
嘘をついているようには思えなかった。
でも、と幸日は眉を曇らせる。
隠し事をしているようには見えた。真実は目のやり場に困ったらしい、俯く。
「いつも…私ばっか相談乗ってもらってる…」
幸日は思わず呟いた。
自分は真実に信用されていないのだろうか。
真実ちゃんはいつもあたしの話聞いてくれるのに。
あたしは、真実ちゃんの相談に乗ったことがあっただろうか?
そんなことを考えていると、真実はまるで幸日の心情を見透かしたように、コツンと幸日の頭を叩いた。
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