ポケットの恋
「お待たせしました!」
ダンッと荒々しくコーヒーを置くと、古谷はにっこりとして真実を見上げた。
「……何よ」
「秋田、きっとそうやってコーヒー持ってくると思ってた」
「きもっ!!それ飲んだら早く帰って!」
「やだよー。せっかくお代わり自由のやつにしたのにもったいないじゃん」
もうやり取りはいつものとおりだ。
真実が何か言い返そうと口を開きかけたとき、明日美が小さく真実を呼んで、ジェスチャーで声を落とせと伝えてきた。
そうだった。他にも客はいたんだった。
仕方なく、少し声を落として顔を近づける。
しかし口を開く前に、扉が開くときのカランという音に遮られた。「いらっしゃいませ」
他の店員が応対するのを見て古谷に視線を戻す。
「そういう飲み物だけで居座られる客、迷惑なんだけど」
いつもの調子で言うと、古谷が口を開き掛けてすぐに閉じた。
その様子に思わず硬まる。
何かまずかっただろうか?
いつも通りに答え過ぎた?
動揺して何を言おうとしたのだろう、口を開いた時、後ろから声が掛かった。
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