ポケットの恋
言葉には、どう考えても馬鹿にしたような響きが含まれていて。
「付き合ってねぇよ」
固まっている真実の横で、古谷が吐き捨てるように言った。
「なんだよ、じゃあなんで一緒にいんの」
「大学一緒だったんだよ」
伝えられる最小限の内容だ。
「何?え、じゃあまみちゃんまた良行の後追ってきたんだ?」
「あの頃もずっと良行の後ついて回ってたもんなあ?」
違う、と言い掛けて古谷は真実を見る。
瞬間何かが喉に追り上がってきて息が詰まった。
真実は無表情で俯いている。
その表情はあの時と一緒だった。気付いた時には机を殴っていた。何か言おうと口を開いた瞬間、明るい声がそれを遮った。
「すいません、他のお客様がいらっしゃいますので」
いつの間に来たのか、明日美が真実の横に立っていた。
真実が明日美を見て一瞬泣きそうな顔をする。
そして小走りにキッチンへ入って行った。
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