ポケットの恋
「良行…なんかあったのかな…」昇降口で、真実はまた時計を見上げた。
小学三年生になっても、登下校はまだ良行と一緒だ。
ただ今日は、いつもの時間に良行はあらわれなくて、真実は少し不安になりながら、校舎の窓を見上げた。
良行の教室はあそこ。
校舎のはじから窓を数えて、真実は見当をつける。
見るとまだ電気がついている。
まだ教室にいるにちがいない。そう思って、真実は良行を迎えに行くためにぴょんと立ち上がった。
良行の教室を、小走りに目指す。
そのままの勢いで教室に飛び込もうとして、真実は良行の他にまだ人がいることに気がついた。
途端にすくんで、足が止まってしまう。
「じゃあ俺行くから」
期待していた良行の声は、すぐに聞き取れた。
ほっとしていると、余計な声が後を追ってくる。
「おまえまた泣き虫真実ちゃんと帰るのかよ」
不意に聞こえてきた自分の名前に、びくっとした。