ポケットの恋

気付いたら、もう逃げ出していたと言っていい。
良行が何か言う前に、真実は教室を後にして全速力で走り出した。ずっと後ろの方で、良行が何か叫ぶ声が聞こえたような気がしたが、昇降口をでて、通学路の大通りに入るまで真実は止まらなかった。
「よしゆき…」
通りの隅に疲れてしゃがみ込んで、真実はぼそりと呟いた。
呟いた途端、あっという間に涙が溢れ出す。
「あたし…やっぱり泣き虫だ…」

良行は好きじゃないって言ったのに。
泣き虫が嫌いって言ったのに。
泣くな、馬鹿。

真実は何度も目を擦って、唇を噛み締めた。
熱い涙に戸惑いながら、どこかで冷静に考える。

良行のとこに行ったらきっと泣いちゃう。
良行はあたしみたいな泣き虫が嫌いなんだ。
もう良行には会いに行かない。
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