ポケットの恋
電話の向こうで真実はストーカーにまず怒り、それから古谷の家にいると言ったことで完全に切れた。
「すぐいくから!」
去り際の言葉は耳に痛い程だった。
どこに家があるかわからないだろうからと真実と南部は駅で合流することになって、とりあえず二人に連絡はついた。



チャイムも押さずに、真実と南部が飛び込んできたのは、20分程たってからだった。
「幸日っ!」
乱暴にドアを開ける音と共に、真実の鋭い声が響いてきて、それまで緩んだ気持ちで古谷と話していた幸日は、慌てて背筋を伸ばす。
「大丈夫!?幸日!」
「真実ちゃん!あんまり大声だすと近所迷惑だよっ」
「近所より幸日よ!大丈夫!?何された!?怪我とかしてない!?なんでこんな暗い時間に一人で外に出たの!」
「い…いっぺんに言わないで…」弱った声を出すと、古谷が真実の肩に手を置いた。
「秋田、もう少し戸田の気持ち考えてあげなよ。まだ完全に落ち着けてる訳無いんだし。」
真実の顔が一気に赤くなる。
「あんたに言われなくてもっ…」そこで真実の言葉が止まった。
凍りついたような視線が古谷のものとぶつかる。
瞬間真実は古谷から目を逸らした。それから俯いて黙り込む。
「真実ちゃん…?」
驚いて声を掛けても真実は返事をしない。
古谷は、曖昧な笑顔を浮かべた後目を臥せてしまった。
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