ポケットの恋
困ったように視線を迷わせて、戸口で目が動かせなくなる。
額に汗を浮かべた南部が立っていた。
目があって、慌てて頭を下げる。
熱っぽい瞳で微笑まれて、こんな時なのに心臓がはねた。
「あ、秋仁。何してるの。早く座って」
隣から声をかけたのは古谷だ。
真実はさっきから微動だにせず、幸日の隣に座っている。
南部は頷くと、古谷の隣に腰を下ろした。
「秋仁も秋田も、電話で話したから大体はわかってると思うけど」古谷がポットのお湯でコーヒーを作りながら切り出す。
「戸田のストーカーが本格的にストーキングしだした」
「まって!」
予想外に鋭い声が出たのは、いたたまれない気持ちになったからだ。
よし君はあぁ言ったけど、これ以上皆に心配はかけられない。
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