ポケットの恋
搾り出した声は、先程よりも裏返った。
「えっと…どういうこと?」
「お礼は別にしたいです。何にするか考えておいてください」
じゃあ、と切り出す前に軽く咳ばらいをした。
ここでひっくり返りたくはない。「じゃあ、メールで伝える」
気張り過ぎたせいか、やけに気取った声になって、古谷が隣で吹き出したのが聞こえた。
こいつ、後でしめる。
「じゃあ、待ってます」
そう言って微笑み会釈すると、幸日は真実の方に向き直った。
程なく、二人の背中が角を曲がり見えなくなる。
「かわいい…と頬を染める南部秋仁21歳であった。ヒュー!ヒュー!熱いね!春だね!」
「馬鹿だろお前、思春期男子か!」
ぎろりと睨み付けると、古谷は肩を竦めてにやりと笑った。
「でもあながち間違って無いでしょ?」
「…さぁな」
古谷を置いて歩き出す。
その後を慌てた様子もなく古谷が追っていった。



「幸日、あんたあの南部って人好きなの?」
ここまで来れば声も聞こえないだろうと思ったところで、真実は口を開いた。
「ふぇ!?」
「どうなのよ」
これは質問じゃなくて確認だ。
あぁ、やっぱり真実ちゃんは凄い、と幸日は思った。
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