ポケットの恋
「ごめんなさい。南部さん、わざわざ家まで来るの大変ですよね」
大学に続く道を歩きながら、幸日はぽつりと呟いた。
思いの外声が小さくなったのは、南部にそれ肯定されるのが怖かったからだと思う。
恐る恐る南部を見上げると、南部は笑顔で首を振った。
「全然。むしろ嬉しいくらいだ」「え?」
「好きな子を守りたいっていうのは、どの男でも一緒だと思う」
思わず息を飲んで南部を見上げる。
彼は普通の会話の一つとして言っただけのようだった。
特に変わった様子もない。
「…ずるいですそういうこと自然に言えちゃうの」
「え?」
南部は届かなかったのか、聞き返してくる。
「なんでもないです」と首を振って俯いた。
やっぱり女の子と付き合ったことなんて何回もあるんだろうな。
そして同じことを言われた子も他にたくさんいるはず…
そこまで思考してふと考えが止まった。
今あたし、何考えたの。
南部さんが今まで何人の女の子と付き合ったかとか、女の子にどんな言葉をかけたかとか。
< 211 / 341 >

この作品をシェア

pagetop