ポケットの恋
「変わらず来てるんだよね?」
「はい。全然中見てないけど…数はいつもと変わらないと思います」
思い出すと自然に顔が強張る。
無意識に溜め息が漏れた。
南部はその幸日を痛いものを堪えるような顔で見ていたが、やがて幸日の頭をぽんと叩いた。
「よし幸日ちゃん。学校まで競争しよう」
「え?」
「ほら荷物貸して」
思わず幸日は言われるがままに鞄を差し出す。
南部はそれを肩に掛けよーいどんと一声、走り出した。
「ほら幸日ちゃん!いいの?負けるよ」
「え…待って下さい南部さん!」幸日も慌てた顔で走り出す。
荷物がないので走りやすかった。
自分で競争と言いながら、南部はもはや小走りというよりは速歩きくらいのスピードで、幸日との間が開かないようにしている。
その優しさに、またどきりと心臓が跳ねた。
ストーカーが出てから、いつもどこか怯えながら通っていた道なのに、メールを思い出して、気分は最悪だったのに、もう楽しんでいる自分がいて。
その単純さが可笑しくなって、幸日は走りながらくすりと笑った。
あたしが、ストーカーなんかに惑わさせてたらいけない。
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