ポケットの恋
「南部さん!南部さん!」
わざと緊迫した声で南部を呼ぶ。
南部は慌てて立ち止まって、幸日を振り返った。
「どうし…」
南部が言葉をつまらせたのは、幸日が南部の脇をするりと抜けたからだ。
唖然としている南部を追い越して少し走ったところで、幸日はくるりと向きを変えて南部を見た。
「抜かしました!負けちゃうのは南部さんの方じゃないですか?」
「え…あ!なに、もしかして騙した!?」
「優し過ぎます、南部さんは!」「うっわ!そういうことなら手加減しないよ!?」
いいながら、南部が走り出す。
もちろんあっという間に再び抜かされたが、ちゃんと幸日との間隔に気をつけているあたりが、やはり南部は優し過ぎた。



「荷物、ありがとうございました」
大学に着いて、幸日は息を切らせながら言った。
「はい」
南部が笑いながら鞄を渡してくる。
「結局同時だったね」
言われて、受け取りながら頷いた。南部が当然手加減してくれたのはわかっている。
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