ポケットの恋
もちろん最後に、帰る時はメールしてと、念を押すのも忘れない。「あ…ありがとうございました!」幸日は慌てて、去ろうとする背中に頭を下げた。
南部が軽く振り返る。
「お礼いいって。不謹慎だけど…楽しかったし。じゃ」
そうして今度こそ振り返らずにもと来た方向へ歩いて行った。
その後ろ姿に、何となくみとれる。
真実に声をかけられて、幸日は急いで席についた。
「ねぇ、大丈夫だった?つけられてる感覚とかあった?」
真実が声をひそめて尋ねる。
「どうだろう…前みたいに足音とかは聞こえなかったけど…」
「かげで見てた可能性はあるよね」
「そうだね…確か途中2人くらいとすれ違ったかなぁ」
南部と話すのに夢中で、しっかりとは把握できていない。
南部さんなら、すれ違った人数も男か女かも、どんな恰好してたかも、全部見てたんだろうな、と幸日は頭のすみで思った。
< 217 / 341 >

この作品をシェア

pagetop