ポケットの恋

真実がバイトに行った少し後、幸日が小走りにやってきた。
「遅くなってごめんなさい!」
息を切らして言う幸日にいいやと首を振る。
並んで歩き出して、さっきの真実との提案を切り出した。
案の定幸日はそれを拒む。
「だって…それじゃ、真実ちゃんに迷惑掛けちゃうし…」
「そうかな…?だって秋田さんは幸日ちゃんの送り迎えできないことにあんなに怒ったんだよ?迷惑とか絶対考えないと思うけどな」でも、と幸日はしつこく渋った。
「泊まるって言っても一日や二日じゃないし…荷物とかあるし」
俯く幸日を、南部が覗き込む。
「秋田さんが迷惑とか無しにして、幸日ちゃんは一人でいて怖くない?」
びくりと、幸日の肩が震える。
「…怖い…です」
同じように震えた声が小さく絞りだされる。
南部は幸日の頭にぽん、と手の平を置いた。
「幸日ちゃんはまず自分最優先ね。迷惑とかは二の次。秋田さんも古谷も心配は是非したいと思うよ。勿論俺も」
「……」
急に黙り込んでしまった幸日を、また南部が覗き込む。
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