ポケットの恋
朝目が覚めて、すぐに良い匂いがすることに気がついた。
多分フレンチトーストだ。
もぞもぞと体を起こして、幸日はキッチンに向かう。
「おはよう、真実ちゃん」
あくびまじりに声をかけると、真実は忙しそうに「おはよ!」と返した。
「これ、作っといたから。食べてね。じゃ、あたしバイト行くから」
変わらず忙しそうにバッグを肩にかけて、言い終わるとともに真実は玄関に走る。
幸日も後を追って、真実を見送った。
真実が幸日の家に泊まり込むようになって、今日で一週間になる。相変わらず、真実はバイトのため、朝早く出て夜遅く帰ってくる生活だが、それはそれで夫婦のようで、なかなかうまくいっている。何より、メールや電話が気になって睡眠不足ぎみだった幸日が、真実が来たことでぐっすり眠れるようになった。
最近では、帰ってきた真実とずっと喋っていたりして、幸せな夜更かしをよくする。
そうなると現金なもので、ストーカーのことも気にならなくなってきた。
携帯を見て受信メールが増えているのを見る瞬間はやはり苦痛だ。でも以前よりその苦痛が長引かなくなった。
フレンチトーストを口に入れて、幸日は一人にっこりした。
< 234 / 341 >

この作品をシェア

pagetop