ポケットの恋
21
「次に発作を起こされた場合は…覚悟なさってください」
無機質な廊下に、冷たい声。
やっぱり病院は嫌いだなあと、真実はぼんやり思った。


携帯に突然病院から電話が来たのは、大学が終わった後のバイト先でだった。
お母さんに発作が起きた。できれば病院に来てほしい。
伝えられたのは短くそれだけで、真実は明日美に一言だけのこして、病院に急いだ。
バイト先から、母のいる病院まではそれなりに距離がある。
結局、病院についた頃には母の発作もおさまったらしい。
、ホッとしたまま通された診察室で、医師が最初に放った言葉が覚悟してくださいだったのだから、ホッとした自分が妙にバカらしく思えた。
「そうですか」
自分でも他人事のように聞こえる声は、やはり医者も同じように感じたらしい。
不審気な表情を浮かべていたが、「今は薬で寝てらっしゃいます」と言うと、会釈して去って行った。
それに会釈を返すのも忘れて、母親の病室へ入る。
< 256 / 341 >

この作品をシェア

pagetop