ポケットの恋
母は静かな表情で眠っていた。
力が抜けて、ベッド脇の椅子に座り込む。
「お母さん…」
小さい声で話しかけても、当然返事はない。
横顔を見つめている内に、泣きそうになった。
慌てて目を擦る。
とりあえず今日は泊まって行こうと決めて、幸日に連絡するため携帯を取り出した。
『今日帰れない。ごめんね』
一気に打って送信する。
。順当に行けば幸日はもう家にいる筈だ。
ストーカーからのメールは減ったと言っていたから、きっとすぐに見るだろう。
覚悟、ということはやっぱり…―嫌な考えを頭から弾き出す。
単身赴任の父親はこんな時でも病院には来られないらしい。
自然と溜め息がこぼれた。
同時に眠気も襲ってくる。
抗わずに目を閉じると、真実はすぐに深い眠りに落ちていった。
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