ポケットの恋




「古谷…おまえ大丈夫か?」
「は?何が」
「最近変だろ」
「そーぉ?」
聞いてもどうせ真面目な答えは返ってこないとは思っていたが、案の定だ。
いつものバイト先で防犯カメラの映像を見ながら、南部は小さく溜め息をついた。
目の前に並んだ液晶には様々な人間の歌う姿が、一定の間隔で流れていく。
「俺この作業好きじゃないなあ」古谷が漏らした言葉に南部も頷いた。
ここでは受付の担当が、客の来ない時に受付カウンターの区画とはカーテンで仕切られた個室で、各室の防犯カメラから送られてくる映像をモニター監視している。
カラオケで歌っている無実な人々の映像を見る行為には、どこか後ろめたいものがあった。
< 270 / 341 >

この作品をシェア

pagetop