ポケットの恋
しばらくして、古谷がモニター室に戻ってきた。
由利の友達が来たからだ。
何事もなかったように、手近な椅子に座った古谷に、意図したわけでもなく、かける言葉をうしなった。
「なにやってんだよ…」
散々思案して、出てきた言葉がそれだ。
気が利いていない代わりに、今南部がもっとも聞きたいことである。
「なにって、モニター見てんの」「ちげぇよ、わかってるだろ。由利ちゃんのことだよ」
「由利?付き合うことにしたよ」古谷は南部には目もくれずにしれっと返す。
「付き合うことにしたよ、じゃないだろ!」
思わず声を荒げた南部に、古谷は冷たい視線を向けた。
「なに?俺が決めたことなんだから、南部には関係ないでしょ」
「馬鹿か!だってお前秋田さんが好きなんじゃ、」
「あのねぇ」
南部の言葉を遮って、古谷が少しだけ声を張り上げた。
「南部は知らなくて当然だけど、俺と秋田は小さい時に色々あったの。ガキの時のことでも、秋田にはきっと大きい棘になってんの。俺がしていいことは、かげで守ることくらいなの。堂々と守れる権利、俺にはないんだよ」
お分かり?と最後につけたして、古谷は話を畳んだ。