ポケットの恋
最近なるべく会わないようにと避け続けてきた男の顔は、今までに見たどんな顔よりも真剣だった。切羽詰まっていたという方が、正確かもしれない。
意志に反して、体は張り付けられたように動かなくなった。
「秋田、話したいことがあるんだけど」
「あたしはない」
振りほどこうとすれば、できる強さだったかもしれない。
だが、そうしようにも手は動かなかった。
真実は精一杯古谷を睨みつけた。「由利のことなんだけど」
動揺がはしったのは、睨みつけられた古谷ではなく、真実の方だ。由利、と聞けば、すぐにコンビニでの記憶にたどり着く。
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