ポケットの恋
「真実ちゃん!」
病院ということも忘れていた。
真実の姿を見た瞬間、幸日は思わず声を上げた。
真実が驚いたようにこっちを向く。それから首を背けて歩き出してしまう。
古谷と幸日は無言で顔を見合わせて、慌ててその背中を追った。
真実ちゃん、と必死に呼びながら、手を掴む。
真実は振り返らなかった。
「なんでいんの」
代わりに、返ってきたのは冷たい言葉だ。
「真実ちゃん…」
「あたし言ってないよねぇ!なんであんた達がここにいるの」
「ごめん、結城さんに聞いた」
なにも言えない幸日にかわって、古谷が口をはさんだ。
「今日カフェいったんだけど、秋田いなかったから」
「だからって、なんで来んの?あたし、来てほしいとか言った?」
「言ってない」
古谷は肩を竦める。
「でも秋田一人じゃ心配だったから」
思わず出た、という風情の言葉に、真実の肩が震えた。
「…また昔みたいにびゃーびゃー泣いてるとか思った訳?」
「そういうこと言いたいんじゃないでしょ」
また真実が反論しようと口を開いて、止めたのは幸日だった 。
「二人共っ今こういうことしてる場合じゃないでしょっ」
真実はむすっとして口を閉じた。