ポケットの恋
「秋田、ずっと泣かないつもりでしょ。俺達がいてもいなくても」真実の動きが完全に停止する。
「…は?」
同時に怪訝そうな声が一つ。
古谷は嘆息して、幸日を振り返った。
「秋田が泣けなくなった理由って、多分…つか絶対俺にある。だから」
言い切る前に、幸日は小さく笑って頷いた。
「真実ちゃん、落ち着いたら連絡してね」
真実が聞いていたかどうかはわからない。
真実の肩がぴくりと反応したような気がしたのは、聞こえていたからだと決め付けた。
どう頑張っても力になれないなら、潔く引いた方がずっといい。
真実ちゃんは強い。
だけど、きっとその強さを保つのは大変で。
真実ちゃんがあんなに、帰れと繰り返したのはあたしが嫌いなんじゃなくて、大切な友達だったからなんだよね?
そう信じてるし、そう信じたい。
心配かけたくない、傷つけたくない。
そんなことは、あたしだって、いつも思ってることだから。
真実ちゃんが弱いあたしを守ってくれるなら、あたしは不器用な真実ちゃんの気持ちを受け止められるようになる。
昔からそう決めていた。
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