ポケットの恋
発車したパトカーを見送った幸日が、怖ず怖ずと南部を見上げた。
「南部さん?あたし大丈夫でしたよ?なんか不思議とパニックになってないし…」
「それを、世間一般では強がりって言うんだよ」
強がってなんか、と反論した幸日を南部が握った手に力を込めることで制した。
「手、震えてる」
南部を見つめる幸日の目から、一気に涙がこぼれ落ちる。
幸日を安心させてあげる方法がわからない。
そもそも自分に安心させてあげることができるのかもわからない。いきなり抱きしめるのも、逆にさっきの痛ましい事件を思い出させてしまいそうで怖かった。
だから、今は。
幸日の手を優しく握り直す。
「家帰ろっか」
その提案に、幸日はふるふると首を振った。
「一人に…なりたくない…です」その言葉で、今日は真実が帰ってこないかもしれない事実を思い出す。
「…わがままですけど…一緒にいてもらっても…いいですか?」
目を合わせ無いのは、拒絶されるのが怖い証拠だ。
「わかった。もう少しここにいる」
安心させるように、繋いだ手を優しく振った。
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