ポケットの恋
家に近づくにつれ、現実が戻ってきていた。
古谷は溜め息をひとつ着いてから、自分のマンションのエントランスへ踏みいる。
病院で真実との誤解を少しでも解くことができたことが嬉しくて、幸日のことを忘れ掛けていた。
南部と幸日はであえただろうか。
とにかく、部屋についたらすぐに電話だ。
郵便受けからDMを取ると、古谷はマンションの階段を駆け上がった。
手探りで部屋の電気のスイッチをつける。
とりあえずDMを机に投げ出して、ベッドに腰掛けた。
携帯を綿パンのポケットから引っ張り出す。
メールを受信していることを告げるライトが明滅していた。
…秋仁か?
受信ボックスを開くと、知らないアドレスが表示されている。
不審に思いながらメールを開いた。
ただ一文。
目に入った瞬間に、思わず口元を覆った。
"ありがとう"
名前すらも書いていない。
こんなメールを送ってくるのは、彼女しかいないだろう。
どうせ言い逃れするつもりだ。
あたしが送ったんじゃない、と。「ったく…素直じゃないなあ」
にやけるのを止められずにベッドに横になった。