ポケットの恋
先程から、二人は何も言わずに公園のベンチに座っていた。
幸日は俯いたままで。
南部は声の掛け方に困ったままで。
痛い沈黙が続く。
それを破ったのは幸日の泣き声だった。
「…っ…あたしっ…怖かったんですっ…。服破られたことも、ストーカーが雅也君だったことも、今までのメールも…っ。でも、そんなこと言う資格なんてないですよねっ」
続きは聞こえなくなる。
言いきる前に、南部が抱きしめていた。
はっと幸日の息の飲む音が聞こえた。
「資格なんて、そんな問題じゃない」
「だって…南部さん知ってました?真実ちゃんのお母さん、医者に遠回しに覚悟してくださいって言われちゃうくらい悪かったこと。なのにあたしのために泊まり込んでくれて、きっと大切な郵便とかあったはずなのに…っ。あたし、真実ちゃんがせっかくしてくれたこと、全部無駄に」
「幸日ちゃん、言ってること支離滅裂。秋田さんは関係ないよ。自分一人で勝手に悲しんじゃ駄目なんて、大分見当外れだ」
腕のなかで、幸日がかすかに身じろいだ。