ポケットの恋
「あいつは、自分がすることを正当化したかっただけで、幸日ちゃんはその被害者だ。十分被害者面していいんだよ」
「でもっ…」
「あぁ…っもううるさい」
思わず頭を掻き乱した。
―幸日ちゃんは優しすぎる。本当に君は被害者なのに。
いきなりの暴言に、幸日がすくむ。
「ごめんなさ」
謝ろうとしたのを、頭を撫でることで止めた。
「幸日ちゃんは、悪くないよ。俺なんかが言ったって意味無いかもしれないけど。でも俺は」
そこで視線を合わせる。
「幸日ちゃんが、自分で自分を傷付けようとしてるとこなんか見たくない」
幸日の瞳が揺れた。
「幸日ちゃんは思いっきり泣いていいんだよ。あいつに申し訳ないとか、思わなくて全然いい」
小さな嗚咽を漏らして幸日が俯く。「でも…」
まだ何か言おうとした幸日を覗き込む。
「わかった?」
少し強い言葉に、ようやく幸日は小さく頷いた。
頷いて、下を向いた途端に、耐え兼ねたように、目から涙が落ちた。
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