ポケットの恋
南部の手が頭に乗る。
頭を撫でてくれる大きな手が、すごく優しい。
あぁやっぱり。
「南部さん」
小さくつぶやくと、南部は首を捻って耳を寄せた。
「何…?」
「信じてもらえますか、あたしが今、好きって言っても」
言った途端、南部が寄せていた顔を勢いよく引いた。思案するように視線をさ迷わせる。遅れて、幸日の頭にあった手も引きながら、
「―…ごめん、なんて?」
「私は、前、南部さんが、私が彼女だったらいいって言ってくれたの信じていいですか?」
言いながら、自分が妙に強気なことに心の中で笑う。
でもいい。強気なのは、あたしがあたしの気持ちにちゃんと向き合えたからで。
「…もちろん」
南部がやっとだした声は、大分かすれていた。
強気だったくせに、南部の答えに幸日はほっとする。
「あたしも、南部さんが好きです」
しっかり目を見詰めて言う。
空気がゆっくり透明になる。
その空気の中で、南部は解けたように笑った。
< 323 / 341 >

この作品をシェア

pagetop