ポケットの恋
二人して公園を出る。そのタイミングで、南部の携帯の着信音が鳴った。
そういえばマナーモードにしていなかったな、と今更のように思い出す。液晶に表示された名前を見て、知らずに眉が寄った。
「どうかしました?」
本人より先に、それに気付いた幸日が声をかける。
「いや…」
南部は首を振るとため息と同時に通話ボタンを押した。
「南部ごめん!!」
いきなりの耳元での大音声に、慌てて携帯を耳から引きはがした。携帯から漏れ聞こえた声に、幸日も相手を悟ったらしい。
困ったように首を振る。
「戸田に会えた!?色々伝えてなかったから!まだ会えてなかったらすぐ電話して…」
「もう会えた」
珍しく動揺している様子の古谷の台詞を、南部は不機嫌な声でぶった切る。
「あ…そっか。よかった」
電話の向こうで、古谷が明らかに安心したのが感じ取れた。
「よかねーよ、この馬鹿!!!」怒鳴ったとたん、幸日が隣ですくんだが気にしない。
「電話すんのがおそいだろうが!つーかなんで俺に連絡つくまえに外に出した!!」
「え、なんで」
「俺が着いた時にはもう遅かったよ!」
幸日が南部のシャツの裾を引いた。
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