ポケットの恋

「…何があった？」
古谷の低めた声にため息を返す。幸日の前で、あのことを話すのは気が引けた。
「またこっちから連絡する」
「わかった。…ごめん」
普段には無い、沈痛な古谷の声で電話は切れた。
「よし君、なんて？」
幸日の言葉に軽く笑顔だけ見せて、幸日と手を繋ぐ。
「帰ろうか」
「あ…そうですね」
心細げになった表情に、幸日が家で一人になってしまうと気がついた。幸日に大丈夫かと聞こうとしてやめる。大丈夫じゃないのに、大丈夫と虚勢を張ることは明白だ。