ポケットの恋
幸日がきょとんとする。
真実の隣で、古谷が吹き出した。真実が怒った表情のまま真っ赤になる。
「なっ…何よ!」
「いや…」
古谷は笑いを堪える為に拳を口にあてていたが、不意に両膝を打った。
「な…何」
真実が若干引け気味になる。
「よし来い秋田!!」
古谷は両手を大きく広げた。
「はぁ?」
「秋田には俺がいる!」
その瞬間に真実は古谷の頭を勢いよく叩いた。
「ぃっ…た」
わざとらしく打たれた箇所を押さえて椅子に埋まった古谷に真実は鼻を鳴らす。
「真実ちゃんね、人を目覚まし時計止めるみたいにはたかないでくれる?」
古谷がそう言うのと同時に幸日が立ち上がった。
「真実ちゃんすき!」
そう言って机の対岸から真実の首にかじりつく。
真実は一瞬驚いたように息を詰め、すぐに嬉しそうに目を細めた。
「応援してる。だけど、辛いことは全部あたしに話してね」
幸日にだけ聞こえるように囁くと、幸日は何度も頷いた。
乗り出した弾みでこぼれないように、南部によって退かされていた幸日のコーヒーカップが目につく。
そうね、やっぱりあの人なら幸日に相応しいわ。
こぼれ落ちる微笑みを押さえずに、真実は幸日の頭を思い切りぐしゃぐしゃにした。
「ちょ…やだ真実ちゃん!」
本気では無い抵抗に、真実はそこそこにして手を離す。
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